顧問先の社長から「後継者がいない」と打ち明けられたとき、何と答えたらいいのか。頭ではM&Aという選択肢があることはわかっていても、具体的な実務知識がなければ、その先の言葉が続きません。「詳しい専門家を紹介しますね」と言って、毎回横にパスし続ける——そんな状況に後ろめたさを感じている士業・専門家は、決して少なくないはずです。
この記事では、士業が今から取り組めるM&A資格の全体像を整理し、本業との両立を前提にどの資格を選ぶべきかを解説します。
事業承継の相談を受けるたびに、専門家に丸投げしていた話
顧問先の社長に「後継者がいない」と言われて気づいたこと
「息子が継がないって言いはじめてね。もうどうしたらいいか分からないよ」
顧問先の社長にそう打ち明けられたとき、何と答えたでしょうか。
頭では「M&Aという選択肢があるはず」とわかっています。でもその先が続かない。「詳しい専門家を紹介しますね」と言って、電話を切る。毎回それだった、という方も多いのではないでしょうか。
社長はこちらを頼っている。それはわかっています。なのに、肝心な相談を受けるたびに横にパスし続ける自分が、だんだん情けなくなってきます。
士業として独立してから数年が経って、そこそこ信頼を積み上げてきたつもりだったが、事業承継の話題になると途端に頭が真っ白になる。相談を受けるたびに少しずつ罪悪感が積み上がっていく感覚、同じような状況の方はいないでしょうか。
M&A資格の存在を知るまでの経緯
そういうモヤモヤを抱えながらも、「体系的にM&Aを学ぶ機会なんてどこにあるんだろう」とずっと思っていた、という声をよく聞きます。
書店に行けばM&A関連の本はあります。セミナーも探せばあります。ただ、バラバラに情報を拾っても、自分の実務に使えるレベルにはなれません。中途半端な知識で動いて顧問先に迷惑をかけるくらいなら、最初から専門家に任せた方がいい——そう判断して、また丸投げの繰り返しになってしまいます。
実は現在、中小企業診断士や税理士など「すでに本業がある士業・専門家」を対象にしたM&A資格が複数整備されています。そして、その中には「M&Aを全部やる人」ではなく、「最初の相談を受けられる人」を育てることに特化したものもあります。
この記事では、M&A資格の全体像を整理したうえで、士業がどの資格を選ぶべきかを考えていきます。
M&A資格の種類、実は思ったより整理されている

「M&A資格」と一口に言っても、運営団体や目的が違う複数の資格が存在します。ただ、よく見ると構造はそれほど複雑ではありません。
中小企業庁が整備したM&A資格制度とは何か
まず前提として押さえておきたいのが、2021年8月に中小企業庁が創設した「M&A支援機関登録制度」です。M&Aを支援する機関に対して一定の基準を設け、登録・公表することで、中小企業が安心してM&Aに取り組める環境を整備するのが目的です。
この登録制度は「資格」そのものではありませんが、M&Aを支援する専門家の信頼性を担保する仕組みとして機能しています。そして現在、中小企業庁では、中小M&A分野における資格試験制度の創設準備が進められており、今後は専門家に対する資格要件がさらに明確化されていく可能性があります。
つまり、今のうちにM&A関連の資格を取得しておくことは、制度変化への先行投資にもなります。
中小企業向けのM&A資格として代表的な3種類の概要
士業が実務的に選択肢として考えられる主な資格は、以下の3つです。
事業承継士(一般社団法人事業承継協会)
事業承継に特化した民間資格です。税理士・公認会計士・中小企業診断士など指定の国家資格保有者が受講できます。専門家間のコーディネーター役を担うことを想定した設計になっています。
事業承継・M&Aエキスパート(金融財政事情研究会)
金融財政事情研究会が実施する「事業承継・M&A」分野の検定試験に関連する資格で、受験資格の制限はなく、金融機関職員や士業など幅広い層に活用されています。ます。
M&Aコーディネーター(一般社団法人M&Aコーディネーター協会)
中小企業のM&A・外部承継の一次相談を担う専門家を育成することに特化した資格です。中小企業診断士を始めとする各士業、FP、保険営業など、オーナー社長と接点を持つ専門家が主な対象とされており、Eラーニング形式で学習・受験ができます。
2026年時点での制度の最新動向
M&A支援機関登録制度への登録機関は、2026年3月時点で約3,400件に達しています。一方で地域格差の問題もあり、M&Aアドバイザーは三大都市圏に約85%が集中しており、地方には約15%しかいないというデータも示されています。
逆に言えば、地方を拠点とする士業にとっては、今がM&A支援の専門家として地域で存在感を出す好機でもあります。
難易度・費用・合格率を確認しておく
資格を選ぶうえで、費用・難易度・合格率は必ず確認しておきたい基本情報です。それぞれの資格について整理しておきます。
事業承継士の難易度・費用・受験資格
まず受験するには、税理士・公認会計士・弁護士・司法書士・中小企業診断士などの国家資格保有が前提となっています。費用は受講料33万円・受験料9,900円・入会金1万1,000円の合計約35万円で、年会費も別途1万1,000円かかります。
試験は全5日間の資格取得講座(出席率75%以上が必要)を修了したうえで受験する形式で、選択式・記述式を含む試験において60点以上で合格となります。
合格基準が60点以上であることからも、登録・認定という意味合いの強い試験で、きちんと講座に出席して学べば合格できるレベルです。なお、合格率は公表されていません。
総じて「入口のハードル(受験資格の高さ・費用)は高いが、試験自体の難易度は低め」というのが実情です。
事業承継・M&Aエキスパートの難易度・費用・試験内容
事業承継・M&A分野の検定試験は、受験資格の制限がなく、国家資格を持っていなくても受験できます。CBT方式で全国のテストセンターから受験できるため、比較的取り組みやすいのが特徴です。
なお、受験料や合格基準、試験時間などは受験する級によって異なるため、最新の募集要項を確認したうえで選ぶのが確実です。
また、合格率は公表されていないため、難易度を断定するよりも、基礎知識の整理から実務の入口づくりまでを担う資格として捉えるのが適切です。
M&Aコーディネーターの難易度・費用・試験内容
受講料82,500円(税込)、試験料16,500円(税込)の合計99,000円で受講・受験できます。受験資格の制限はとくになく、Eラーニングで教材を学習したあと、60分・60問のO×選択式試験をオンラインで受験する形式です。
合格ラインは80点以上で、試験は何度でも受験できます。テキストをしっかり理解すれば確実に合格できる設計になっており、試験の難易度という観点では3つの中で最もアクセスしやすいと言えます。
士業がM&A資格を選ぶときに大切にしたい視点

費用・難易度の比較だけで資格を選ぶと、取得してから「思ったのと違った」となる可能性があります。士業として資格を選ぶ際には、もう少し手前に立ち返って考えたい視点があります。
取得後に顧問先への提案が変わるかどうか
資格を取ったとき、顧問先の社長に何が言えるようになるのか。そこを想像してみると選択肢が絞れます。
「後継者がいない」と言われたとき、「M&Aという選択肢がありますよ、まずどんな状況か一緒に整理しましょうか」と言えるようになること。それが一番の変化だとすれば、大手M&A仲介に案件を流す前の「最初の相談窓口」機能を担える資格が必要になります。
本業との組み合わせで無理なく動けるか
士業としての本業がある以上、学習は隙間時間に収まることが前提条件になります。
この点で見ると、Eラーニング形式で自分のペースで学習できる資格は、忙しい専門家にとって現実的な選択肢です。一方で、全5日間の通学が必要な講座は、スケジュール調整のコストがそれなりにかかります。
資格を取った後のサポート体制があるかどうか
M&Aの知識は「インプットして終わり」では使えません。顧問先への提案の組み立て方、紹介先の選び方、交渉の進め方——実務の場面で疑問が出てくるたびに相談できる環境があるかどうかは、資格の「使えるかどうか」を大きく左右します。
取得後のコミュニティや継続研修の質は、選ぶ際に必ず確認しておきたいポイントです。
M&Aコーディネーターが士業・診断士に選ばれている理由
3つの資格を並べて見てみると、士業が最初に取るべき資格という観点でM&Aコーディネーターが選ばれる理由が見えてきます。
「全部やる」ではなく「最初の相談窓口」という役割に特化している
M&Aコーディネーター協会の設計思想は、「案件を全部自分でこなすM&Aの専門家を育てる」ことではありません。中小企業の社長がM&Aという選択肢を知らないまま廃業や休眠に向かっているという現実に対して、「一次相談を受けられる専門家を増やす」ことを目的としています。
これは、士業として日常的に中小企業経営者と向き合っている人間の使い方にとても近い役割です。「最初の相談を受けて、整理して、適切な専門家につなぐ」——この役割なら、本業との両立が現実的に可能です。
地域の専門家として大手仲介と住み分けられる
「日本M&AセンターやM&A総研がいるのに、自分が関われる余地があるのか」と感じる方もいるかもしれません。
実はM&Aアドバイザーは三大都市圏に約85%が集中しており、地方には約15%しかいないという現実があります。大手が動かないような小規模案件・地方案件に対して、地域に根ざした士業がコーディネーターとして関わる余地は、想像以上に大きいと言えます。
大手が得意とするのは相応の規模の案件です。一方で、地域の中小企業——とくに譲渡価格が数千万〜1億円程度の小規模な案件は、手数料の都合もあって大手が積極的には動きにくいのが現実です。そこに地域密着型のコーディネーターが入る住み分けは、すでに全国各地で起きています。
取得後のコミュニティとネットワークが実務を支える
資格取得後に孤独になるかどうかは、実務への転換率に直結します。M&Aコーディネーター協会では取得後のつながりがあり、同じ立場の士業・専門家との情報交換や、実務上の疑問を解消できる環境が整っています。
一人で独学してスペックだけ得るのではなく、同じ方向を向いた専門家のネットワークを持てること——これが継続的に案件に関われるかどうかの差になってきます。
M&Aコーディネーター資格について詳しく見てみる
ここまで読んで「M&Aコーディネーターが自分に一番合いそうだ」と感じていただけた方に向けて、もう少し具体的にご案内します。
一般社団法人M&Aコーディネーター協会が運営するこの資格は、Eラーニングで動画と教材を学習したあと、オンラインで試験を受けるという完全リモートの流れで完結します。受講から合格まで自分のペースで進められるため、日中は顧問先対応、隙間時間に学習、というスタイルにも無理なく対応できます。
受講料と試験料の合計は99,000円(税込)で、事業承継士と比べると初期の受講コストは抑えやすい水準です。なお、別途認定登録料や月会費が必要です。
また試験は何度でも受験可能なため、学習をしっかり積み上げれば合格の見通しが立てやすいのも特徴です。
顧問先の社長から「後継者がいない」という言葉を受けて、何もできなかった経験が一度でもあるなら——そのもどかしさをきっかけに、次の一歩を踏み出してみてください。
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