後継者不在と黒字廃業の現実、中小企業の事業承継はどこへ向かうのか

事業承継

「事業承継の問題は深刻だとわかっている。でも顧問先の社長は『まだ先の話』と動かない」——そのもどかしさを感じている士業・専門家は少なくないはずです。

数字で見ると、その「まだ先の話」がいかに危うい認識かが浮かびあがります。後継者がいない中小企業が半数を超え、黒字のまま廃業する企業が年間6万件を超える時代。この現実を把握し、顧問先に届けられる専門家が、地域で「事業承継に強い先生」として頼られる存在になります。本記事では、後継者不足と黒字廃業の最新データを整理し、専門家として何ができるかを解説します。

後継者がいない中小企業が増えている現実

このセクションでは、後継者不足の現状を最新データで整理します。数字を知っているだけで、顧問先への話の深度がまったく変わります。

事業承継における後継者不足の現状と件数データ

後継者不在の問題は、数字で見るとその深刻さが際立ちます。

中小企業庁の2024年版中小企業白書によれば、2023年時点での中小企業の後継者不在率は54.5%で、半数近くの企業で後継者が不在となっている。一方、東京商工リサーチの調査では、2024年の後継者不在率は62.15%で、前年の61.09%から1.06ポイント上昇したとされている。調査主体によって数値に幅があるものの、半数以上の中小企業で後継者が見つかっていないという構図は一致しています。

帝国データバンクと東京商工リサーチでは調査対象・調査方法が異なるため、後継者不在率の数値に差が生じます。後継者不在率の「水準感」として、「半数以上の中小企業で後継者が不在」という事実を押さえておくことが重要です。

中小企業庁の試算では、2025年には70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者が約245万人に達するとされており、そのうち約127万社が廃業に追い込まれる可能性があるとされている。127万社という数字は、単なる統計ではありません。地域の雇用・技術・サービス・コミュニティが失われることを意味します。

後継者不足による倒産件数は増加傾向にあり、2024年度は507件で、長期的には増加していることが確認されている。倒産として表面化するケースはこれだけですが、法的整理を経ない廃業・解散はその何十倍もの規模で起きています。

後継者不在の経営者の平均年齢と年齢層の傾向

2025年版中小企業白書によれば、全国の経営者の平均年齢は2024年に平均60.7歳となっており、中小企業・小規模事業者においても高齢化が進んでいることがわかる。

2024年に休廃業・解散を選択した企業の社長の平均年齢は72.61歳に達し、5年連続で70代を更新している。廃業に至った経営者の大半が70代以上であるという現実は、「70歳を超えてから考えようと思っていたら、廃業しか選択肢がなくなった」という経営者が大量に存在することを示しています。

代表者が50代の企業でも後継者不在率は71.8%、60代でも47.8%と半数近い企業で後継者が未定の状態にある。50代で後継者不在率が7割を超えているという事実は、「まだ若いから先の話」という認識がいかにずれているかを示しています。

「60歳を超えたらそろそろ考える」という経営者は多いですが、50代で動き始めなければ、税制活用・株価対策・後継者育成のいずれも十分な時間が取れません。専門家として「今の年齢でもう動くべき理由」を伝えられる準備が必要です。

若者が事業を継がない理由、その背景にあるもの

後継者として期待されている子世代・若手社員が「継がない」を選ぶ背景には、いくつかの構造的な理由があります。

①経営リスクへの不安

借入金の個人保証・業績変動リスク・経営責任の重さ——サラリーマンとしての安定を選ぶ合理的な判断として「継がない」選択が増えています。とくに親の会社の財務実態を知っている子ほど、「継ぐメリットより負担が大きい」と判断するケースがあります。

②やりたいことが別にある

「この業界・この事業に興味が持てない」というシンプルな理由も多くあります。親が作った事業への愛着がなければ、承継への動機が生まれません。

③「承継する」ことが何を意味するか理解できていない

経営者育成プログラム・M&Aへの出口・事業承継税制の活用——後継者が受け取れるサポートや選択肢を知らないまま、「大変そうだから嫌だ」という感情的な拒否になっているケースがあります。

経済産業省は令和2年度から、39歳以下の後継予定者を対象に「アトツギ甲子園」と呼ばれるピッチイベントを開催している。2024年の調査では出場者の27.5%が事業承継済みと回答し、うち88%が39歳以下で承継していることが確認された。若い世代でも、適切な支援と情報があれば承継を選べることを示す事例です。

後継者募集という選択肢が広がっている

このセクションでは、「後継者は親族・社内から見つける」という発想を超えた、後継者募集の仕組みと実態を整理します。

事業承継 後継者募集の仕組みとマッチングの実態

後継者を「外部から探す」仕組みは、近年急速に整備されています。主なチャネルは次の通りです。

事業承継・引継ぎ支援センター(公的機関)

全国47都道府県に設置された無料相談窓口で、後継者マッチングを含む支援を提供しています。売り手・買い手双方から手数料を取らないため、スモールビジネスの承継相談に向いています。

M&Aマッチングプラットフォーム

「バトンズ」「TRANBI」「M&Aクラウド」などのオンラインプラットフォームでは、売り手が自社を登録し、買い手が検索・交渉できる仕組みが整っています。掲載費用は低コストで、地方の小規模案件も多数掲載されています。

民間M&A仲介会社

日本M&Aセンター・ストライク・M&Aキャピタルパートナーズなど大手から、地域密着型の中小仲介まで多数存在します。成功報酬型が主流で、成約まで費用がかからないケースもあります。

よろず支援拠点・商工会議所

地域の商工会議所やよろず支援拠点でも、後継者マッチングの相談窓口として機能しています。

後継者募集は「M&Aで会社を売ること」と同義ではありません。「経営を引き継いでくれる人を探す」という形で、売却価格を重視しない「経営継承型」のマッチングも増えています。廃業ではなく「誰かに続けてもらう」という選択肢として理解することが重要です。

後継者を外部から探すことへの経営者の本音

「他人に会社を渡すなんて考えられない」——後継者を外部から探すことへの抵抗感を持つ経営者は多くいます。その本音の背景には次のような感情があります。

  • 「自分の会社が買い叩かれそうで怖い」:評価額が低く見積もられることへの不安
  • 「従業員が不安になるのでは」:変化によって社員が辞めてしまうことへの懸念
  • 「他人に経営を任せて本当に続けてくれるのか」:買い手の信頼性への不信感
  • 「売ること自体が敗北のような気がする」:事業を手放すことへの心理的な抵抗

これらの感情を否定せずに受け止めながら、「後継者を外部から探すことは、廃業より従業員・取引先・地域にとってはるかに良い選択肢」という視点を伝えることが、専門家に求められるコミュニケーション力です。

「できない」と諦める前に知っておきたい選択肢

「うちのような小さな会社は買い手がいない」「こんな業種では売れない」という思い込みを持っている経営者は少なくありません。しかし実態は異なります。

スモールM&Aの市場では、独自技術を持つ町工場・地域密着の飲食店・IT活用を進めている小売業など、一見「地味な会社」に高い関心が集まるケースがあります。買い手が求めているのは「規模の大きさ」ではなく「既存の顧客基盤・技術・ブランドの継続性」です。

「できない」と決めてしまう前に確認すべき視点は次の通りです。

  • 10年以上続けている顧客との取引関係はあるか
  • 特定の分野で蓄積された技術・ノウハウはあるか
  • 従業員の雇用を維持することを重視する買い手候補はいないか
  • 廃業するより低い価格でも引き継いでもらえる選択肢はないか

「売れない」ではなく「どんな買い手に、どんな条件で引き継いでもらうか」という設問に変えることが、後継者探しの出発点です。価格にこだわらず「続けてもらうこと」を最優先にすれば、選択肢は大きく広がります。

黒字廃業という問題を正面から見る

このセクションでは、「黒字なのに廃業する」という一見矛盾した現象の実態と、廃業の前に取れる行動を整理します。

黒字廃業とは何か、なぜ起きるのか

黒字廃業とは、収益が出ており財務的には問題がないにもかかわらず、後継者が見つからず廃業を選ぶことです。

2025年版中小企業白書によると、2024年に休廃業・解散した中規模企業のうち、黒字にもかかわらず休廃業・解散した企業の割合は51.1%と過半数を占めている。利益が出ている企業が廃業を選んでいる現実は、「業績の問題」ではなく「後継者の問題」が廃業の主因であることを示しています。

黒字廃業が起きる主な理由は次の通りです。

①後継者が見つからないまま時間が過ぎた:「そのうち誰かが現れるだろう」という楽観が、気づけば経営者が75歳になるまで続いた。

②M&Aや第三者承継という選択肢を知らなかった:「親族・社内に後継者がいなければ廃業しかない」と信じていた。

③売れるとは思っていなかった:地方の小さな会社に買い手がいるとは想像できなかった。

④経営者が「自分の代で終わりでいい」と決めた:後継者を探す労力より廃業を選んだ。

廃業を選ぶ前に検討すべき事業承継の選択肢

廃業を決断する前に、少なくとも次の選択肢を検討したかどうかを確認することが専門家の役割です。

選択肢内容向いているケース
親族内承継子・孫・配偶者に引き継ぐ承継意欲のある親族がいる場合
従業員承継(MBO)幹部社員・社員に引き継ぐ信頼できる社員がいる場合
第三者承継(M&A)外部の企業・個人に売却後継者が社内外に見当たらない場合
事業譲渡会社でなく事業だけを売る採算部門だけを続けたい場合
後継者マッチングプラットフォームで探すスモールビジネスで価格より継続を優先する場合

廃業とM&Aを比較すると、M&Aでは従業員の雇用が維持され、取引先への影響も最小化できます。廃業の場合は、在庫処分・原状回復・解雇予告・各種届出など、想定外のコストと労力が発生します。

地方都市で40年続いた印刷会社の経営者(74歳)が廃業を決意しかけたとき、顧問の中小企業診断士が「一度だけマッチングプラットフォームに掲載してみませんか」と提案しました。掲載から3週間でデザイン系の会社から問い合わせがあり、6カ月後にM&Aが成立。従業員8名全員の雇用が継続されました。「自分の代で終わりにするつもりだったが、続いてよかった」とオーナーは話しています。

廃業届を出す前に相談できる窓口と支援機関

廃業を決断する前に、少なくとも次の窓口に相談することを顧問先に伝えておくことが重要です。

事業承継・引継ぎ支援センター:都道府県ごとに設置された無料の相談窓口。後継者マッチングから税制活用まで幅広く対応。

よろず支援拠点:中小機構が運営する無料の経営相談窓口。事業承継専門のアドバイザーが在籍している地域もある。

商工会議所・商工会:地域密着の相談窓口。後継者マッチングの専任担当者が置かれているケースもある。

日本政策金融公庫:事業承継に関わる融資相談・制度融資を提供。後継者への資金調達支援も行っている。

相談することで「廃業が確定する」わけではありません。「どんな選択肢があるかを把握するための情報収集」として相談できることを、顧問先に明確に伝えてください。「相談=売却決定」という誤解が、行動を妨げる最大の壁になっています。

後継者問題を抱える経営者に士業ができること

このセクションでは、後継者問題を抱える経営者に対して、士業・専門家として具体的に何ができるかを整理します。

「できない」と決めてしまう前に整理すべき4つのこと

後継者問題を「どうにもできない」と思い込んでいる経営者の多くは、次の4つのことを整理できていません。

①現在の会社の状態(株式評価・財務・保証の状況)

自社株が今いくらで評価されるか、借入金の個人保証の状況がどうなっているか——これを把握していない経営者は、選択肢を考えることもできません。まず現状を数字で把握することが、最初のステップです。

②承継の手法とそれぞれにかかるコスト・時間

親族内・従業員・M&A・廃業、それぞれにかかる費用・税負担・所要時間の概算を知らないまま「できない」と判断している経営者が多くいます。

③使える支援制度(補助金・税制・公的機関)

事業承継・M&A補助金・事業承継税制・無料相談窓口——知らないために使えていない支援が多数あります。

④後継者候補に「聞いたことがあるか」

息子・娘・幹部社員に「継ぐ気はあるか」を直接聞いていないまま「いない」と判断しているケースは実際に多くあります。聞く前から「断られる」と思い込んでいることが、最初の壁です。

一次相談の場で経営者の背中を押すための言葉

後継者問題を抱える経営者との一次相談では、専門的な提案より先に「共感と整理」が必要です。効果的な言葉のフレームは次の通りです。

「この件は、今すぐ決断する必要はありません。まず選択肢を整理してみましょう」

「廃業が一番楽そうに見えても、実際にかかるコストと労力は想定より大きいです。比較してから決めましょう」

「後継者を外部から探すことは、会社を手放すことではなく、会社を続けてもらうことです」

「今の段階なら、使える補助金も税制も選択肢があります。5年後では使えなくなるものもあります」

これらの言葉は、知識として「正しいこと」を伝えるより先に、経営者が「自分の問題として考え始めるきっかけ」を作るために機能します。

後継者問題を抱える経営者の多くは、「答えを知らない」のではなく「考えることを先送りにしている」状態です。「整理を手伝う人」として関わることが、最も効果的な一次相談のあり方です。

後継者不在の案件をM&Aにつなぐ実践的な流れ

後継者が見つからない案件をM&Aにつなぐための、実践的な関与の流れは次の通りです。

  1. 現状整理:財務状況・株式構成・個人保証・経営者の希望条件(価格・雇用継続等)を整理する
  2. 企業価値の概算:簡易的な純資産評価と収益力評価で、売却可能な価格帯の目安を示す
  3. 選択肢の提示:M&A・後継者マッチング・事業承継センター活用の3つを比較して提示する
  4. 支援機関への接続:事業承継・引継ぎ支援センターまたは信頼できる仲介会社に引き合わせる
  5. プロセスの伴走:交渉・契約・クロージングの各フェーズで専門家と連携しながら経営者を支える

「つなぐだけでいい」という考え方では、後継者不在案件に本当の意味で関与できません。現状整理と選択肢の提示ができるコーディネーターが間に入ることで、経営者は「自分の会社をどう続かせるか」という問いに向き合う準備ができます。

「あの先生に相談してよかった」と言われる専門家になるには

このセクションでは、後継者問題を前に進めるための専門家としての立ち位置と、M&Aコーディネーター資格との関係を解説します。

後継者問題に向き合えない専門家が失うもの

後継者問題に対して「専門家に確認してください」「仲介会社に相談を」としか答えられない専門家は、顧問先から何を失っているでしょうか。

失うもの①:深い相談を受ける機会

「どうせこの先生に話しても動かない」という印象が積み重なると、経営者は次第に「承継の話は別の人に」と考え始めます。重要な相談が来なくなることは、関係の希薄化を意味します。

失うもの②:承継プロセスへの関与

一次相談で「丸投げ」すると、その後のプロセスに関与する機会がなくなります。税制活用・補助金申請・M&A交渉・PMI支援——いずれも専門家にとっての関与機会ですが、最初のタイミングで離脱すると、すべて他の専門家が担います。

失うもの③:紹介による新規顧客の獲得

事業承継支援で「この先生にお願いしてよかった」という評価が生まれると、同業の経営者仲間・金融機関・商工会議所からの紹介が連鎖します。この紹介の連鎖が生まれるのは、最初の相談を受け止めた専門家だけです。

M&Aコーディネーター資格が後継者不在案件の対応力を変える理由

M&Aコーディネーター資格は、後継者不在案件への対応力を次の4つの面で高めます。

①現状整理の力:財務・株式評価・個人保証の概況を把握して整理する知識が身につく

②選択肢の提示力:親族内・従業員・M&A・廃業のそれぞれにかかるコスト・税負担・時間軸を説明できる

③支援制度の案内力:補助金・税制・公的機関の活用方法を概説し、経営者の行動を後押しできる

④つなぎの設計力:どのタイミングで誰に相談を渡すかの設計ができる

いずれも「全部自分でやる」ための力ではなく、「最初の相談を受け止め、適切に動き出す」ための力です。後継者不在の案件は、「まず整理して動き出させる人」がいるかどうかで、廃業か継続かの分かれ目になります。

地域で「事業承継に強い専門家」として紹介が連鎖する仕組み

地域で「事業承継に強い先生」として認知されると、次のような紹介の連鎖が生まれます。

  • 事業承継の相談を受けた顧問先が、同業の経営者仲間に「あの先生に相談してみて」と紹介する
  • 地元の商工会議所・金融機関が「この件ならあの先生に」と専門家として名前を出す
  • 税理士・弁護士がコーディネーターとして信頼できる人物として紹介先に加える

この紹介の連鎖を生む最初のトリガーは、「一件目の相談でしっかり動いた」という評価です。

ある中小企業診断士は、顧問先の経営者から「息子が継がないと言っている。どうすればいいか」という相談を受けた際、現状整理・選択肢の提示・事業承継センターへの引き合わせまで一緒に動きました。その後M&Aが成立し、従業員の雇用が守られた経緯が経営者仲間の間で話題になり、半年以内に地域の金融機関から3件の相談が持ち込まれました。「事業承継に強い先生」という評判は、案件を通じてではなく「一緒に動いてくれた体験」を通じて広がります。

M&Aコーディネーター資格の取得は、その「一件目の相談をしっかり受け止める力」を体系的に習得する手段のひとつです。後継者不在の中小企業が半数を超える今、地域で「事業承継のことならあの先生」と言われる専門家の需要は、これからさらに高まっていきます。

まとめ

本記事では、後継者不足と黒字廃業の最新データ、後継者募集の選択肢、廃業前に取れる行動、専門家として関与するための実践方法を解説しました。要点を整理します。

  • 2024年に休廃業・解散した中規模企業のうち、黒字にもかかわらず廃業を選んだ企業が51.1%と過半数を占めている
  • 後継者不在率は2024年時点で62.15%に上昇しており、50代経営者でも71.8%が後継者未定という現実がある
  • 後継者募集は「M&Aで売ること」ではなく「続けてもらう人を探すこと」。スモールM&A市場と公的支援機関の整備で選択肢は広がっている
  • 廃業を選ぶ前に、事業承継・引継ぎ支援センター・マッチングプラットフォーム・商工会議所への相談が有効
  • 専門家としての価値は「全部自分でやること」ではなく「現状整理・選択肢提示・つなぎの設計」という一次対応力にある
  • 後継者不在案件を受け止めた専門家には、地域での紹介連鎖が生まれる

「廃業しかない」と思っている経営者の隣に、選択肢を持って立てる専門家になること——それが、後継者問題が深刻化する時代に、地域で求められる専門家の姿です。