「顧問先の社長が事業承継を検討しているが、費用が心配そうだ。使える補助金があるとは聞いたけれど、制度が複雑で説明できない」——そんなもどかしさを抱えていませんか。
事業承継には、国が整備した補助金制度が複数存在します。制度の概要から申請の流れ、採択率の実態まで把握しておくことで、顧問先への提案の質が大きく変わります。本記事では、事業承継補助金・M&A補助金の最新情報を体系的に整理し、士業・専門家として活用できる知識を解説します。
事業承継補助金とM&A補助金、何が違うのか

このセクションでは、「事業承継補助金」「M&A補助金」「引継ぎ補助金」といった複数の名称が混在する理由と、それぞれの制度の位置づけを整理します。
事業承継M&A補助金とは何か、制度の概要
「事業承継・M&A補助金」は、中小企業・小規模事業者が事業承継やM&Aに取り組む際にかかる費用の一部を国が補助する制度です。中小企業庁が所管し、後継者不足による黒字廃業の防止と、地域経済の活性化を目的として設けられています。
この補助金はもともと「事業承継・引継ぎ補助金」という名称で1次公募から10次公募まで運用されていました。11次公募(令和6年度補正予算)からは制度の枠組みと名称が「事業承継・M&A補助金」に改められ、現在に至ります。以前の制度をご存じの方も、改めて最新の内容を確認することをお勧めします。
制度の特徴は、事業承継のフェーズに合わせて4つの支援枠が設けられている点です。承継前の準備段階から、M&A成立後の経営統合(PMI)、さらには廃業を伴うケースまで、幅広い場面に対応しています。
| 支援枠 | 対象となる場面 |
|---|---|
| 事業承継促進枠 | 親族内・従業員承継に伴う設備投資など |
| 専門家活用枠 | M&Aにおける専門家(FA・仲介等)の活用費用 |
| PMI推進枠 | M&A成立後の統合プロセスにかかる費用 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 廃業に伴う費用と新規チャレンジへの支援 |
事業承継補助金・M&A補助金・助成金の使い分け
「補助金」と「助成金」は混同されがちですが、仕組みが根本的に異なります。
補助金は、事業計画や申請書類の審査を通過した事業者のみに支給されます。採択競争が発生するため、申請しても必ず受け取れるわけではありません。事業承継・M&A補助金はこちらに該当します。
助成金は、要件を満たせば原則として支給される制度です。雇用関連の助成金(厚生労働省所管)が代表的で、要件を満たす限り支給されます。
「事業承継 助成金」と検索してくる経営者は、補助金と助成金の区別がついていないことがほとんどです。専門家として「この補助金は審査があるため、計画書の準備が必要です」と最初に説明できることが、信頼関係の土台になります。
補助金の目的と支援対象を正確に理解する
事業承継・M&A補助金の支援対象は中小企業者および個人事業主です。大企業は対象外で、資本金・従業員数による中小企業の定義に基づいて判定されます。
支援の目的は「承継を機にした生産性向上と事業継続」であり、単なる手続き費用の補助ではありません。申請にあたっては、承継後に生産性をどう向上させるかを示す事業計画の策定が求められます。
医療法人・社会福祉法人・一般社団法人・財団法人・学校法人は申請対象外です。個人開業医・個人クリニックは個人事業主として申請対象になりうるため、顧問先の法人形態の確認が必要です。詳細は公募要領で確認してください。
事業承継 引継ぎ補助金の内容を確認する

このセクションでは、現行制度における補助対象経費・金額上限・適用条件を確認します。補助金の説明を顧問先にできるようにするための基礎知識です。
引継ぎ補助金の対象経費と金額の上限
14次公募(2026年)における各枠の補助金額と補助率は次の通りです。
事業承継促進枠
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限額 | 800万円(賃上げ要件を満たす場合は1,000万円) |
| 補助率 | 中小企業:1/2、小規模事業者:2/3 |
| 主な対象経費 | 機械装置、ソフトウェア、外注費、専門家謝金など |
専門家活用枠
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限額 | 800万円(賃上げ要件を満たす場合は1,000万円) |
| 補助率 | 中小企業:1/2、小規模事業者:2/3 |
| 主な対象経費 | M&A仲介・FA費用、デューデリジェンス費用、専門家費用など |
PMI推進枠(専門家活用類型)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限額 | 150万円 |
| 補助率 | 1/2 |
| 主な対象経費 | 統合計画の策定・体制整備にかかる専門家費用 |
廃業・再チャレンジ枠
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助上限額 | 300万円(他枠との併用時は加算) |
| 補助率 | 2/3 |
| 主な対象経費 | 廃業支援費、在庫廃棄費、解体費など |
賃上げ要件を満たすことで補助上限が800万円から1,000万円に引き上げられます。賃上げ計画は申請時に「賃金引上げ計画誓約書」として提出が必要であり、後からの追加は認められません。顧問先が賃上げを予定している場合は、この加算枠を必ず確認してください。
経営者交代型と親子間承継への適用条件
経営者交代型(親族内承継・従業員承継)への適用は、主に事業承継促進枠が対象です。親族内承継で補助金を受けるための主な条件は次の通りです。
- 申請締切日から5年以内に承継を完了する予定であること
- 後継者が被承継者(現経営者)の親族であり、対象会社の代表経験がないこと
- 年率3%以上の付加価値額等の生産性向上計画があること
専門家活用枠・PMI推進枠では親族間の事業承継は対象外です。 これらの枠は「実質的な事業再編・事業統合」が要件となっており、グループ内の再編や親族内承継は対象になりません。顧問先の承継形態によって申請できる枠が変わるため、最初の確認が重要です。
事業承継 引継ぎ補助金2025・2026の最新スケジュールと動向
直近の公募スケジュールは次の通りです。
14次公募(令和7年度補正予算)のスケジュール
| フェーズ | 日程 |
|---|---|
| 公募申請期間 | 2026年2月27日(金)〜2026年4月3日(金)17:00 |
| 採択発表 | 2026年5月中旬(予定) |
| 交付決定 | 2026年6月上旬以降 |
| 事業実施期間 | 交付決定日〜2027年6月上旬 |
| 補助金交付 | 2027年1月下旬以降(順次) |
14次公募の申請受付は2026年4月3日に締め切られています。次回公募(15次)のスケジュールは中小企業庁の公式サイトおよび補助金事務局のウェブサイトで随時公開されます。最新情報は必ず公式情報源で確認してください。
制度の大枠(承継促進・専門家活用・PMI・廃業)は継続的に維持される見通しですが、毎年の公募ごとに賃上げ要件・補助率・加点条件の微修正が行われます。2026年以降の申請を見据える場合は、要領公開前から顧問先の事業計画を整備しておくことが重要です。
M&A補助金の申請で知っておくべきこと

このセクションでは、M&A案件で特に活用頻度が高い専門家活用枠を中心に、申請実務の要点を解説します。
M&A補助金14次の公募内容と対象経費
14次公募における専門家活用枠の対象経費は、M&Aに関わる専門家への依頼費用が中心です。主に次のような費用が対象になります。
- M&A仲介・FA(ファイナンシャルアドバイザー)への報酬:仲介手数料・成功報酬の一部
- デューデリジェンス費用:財務・法務・税務DDにかかる専門家費用
- 企業価値評価費用:バリュエーションに係る専門家謝金
- 契約書作成・法務費用:弁護士への依頼費用
- 外注費・専門家謝金全般:公募要領に定める専門家への報酬
補助申請のタイミングには注意が必要で、補助対象となる経費は交付決定後に発生したものが基本です。M&A手続きの進行と補助金の交付決定のタイミングが合わないと、対象外になる費用が生じるケースがあります。
「補助金が出るはずだった費用が交付決定前に契約していたため対象外になった」というトラブルは実際に起きています。M&A手続きのスケジュールと補助金の交付決定スケジュールを並行して管理することが重要です。
M&A補助金2025・2026年の動向と見通し
2025年からの主な変化は次の2点です。
①名称の変更と枠組みの整理
「事業承継・引継ぎ補助金」から「事業承継・M&A補助金」への名称変更とともに、PMI推進枠が整備されました。M&A後の統合支援まで一貫してカバーする制度設計になっています。
②小規模事業者向け類型の追加
14次公募では専門家活用枠の中に小規模事業者向けの類型が追加されており、小規模なM&A案件でも活用しやすい設計になっています。
2026年以降も令和7年度補正予算に基づく公募が複数回実施される見通しです。承継の大枠目的(促進・専門家活用・PMI・廃業)は継続する見込みですが、GX・DX・賃上げといった政策テーマに連動した加点要件の調整が続くと予想されます。
M&A補助金の採択率と採択結果の傾向分析
直近の採択結果をもとに傾向を整理します。
13次公募の採択結果
13次公募の採択結果は、事業承継促進枠の申請182件に対して採択111件(採択率約61%)、専門家活用枠の申請267件に対して採択163件(採択率約61%)でした。
過去の公募を振り返ると、採択率はおおむね55〜61%前後で推移しており、「申請すれば必ず通る補助金」ではありません。約4割が不採択になっている実態があります。
採択率が高く見えても、「質の高い申請書を出せた事業者」が採択されている点に注意が必要です。事業計画の具体性・生産性向上の根拠・賃上げ計画の整合性が審査で問われます。申請の伴走支援ができる専門家の関与が、採択率に直結します。
傾向として、次のような申請が採択されやすいとされています。
- 承継後の事業計画に具体的な数値根拠がある
- 賃上げ・DX・GX等の政策テーマと事業計画が連動している
- 加点事由(認定支援機関の確認書添付等)を漏れなく対応している
公募要領の読み方と申請の流れ
申請の大まかな流れは次の通りです。
- GビズIDプライムアカウントの取得:取得に1〜3週間かかるため早期対応が必須
- 公募要領の確認:枠の選択・対象経費・要件・提出書類を確認
- 事業計画書の作成:承継の目的・生産性向上計画・資金計画を記載
- jGrants(電子申請システム)での申請:原則オンライン申請のみ
- 採択発表・交付申請:採択後に交付申請を行い交付決定を受ける
- 事業実施:交付決定後に補助対象経費を執行
- 実績報告・補助金交付:事業完了後に報告書を提出し補助金を受け取る
補助金は「後払い」が基本です。先に費用を立て替えてから補助金を受け取る仕組みのため、顧問先に対して「費用はいったん全額負担が必要」という点を事前に伝えておくことが重要です。
補助金を活用した事業承継支援で士業ができること

このセクションでは、診断士・士業・FP等の専門家が事業承継補助金にどう関与できるか、具体的な関与の形と提案価値を整理します。
認定支援機関として補助金申請に関わる具体的な方法
事業承継・M&A補助金の申請では、認定経営革新等支援機関(認定支援機関)の確認書添付が加点事由になるケースがあります。中小企業診断士・税理士・公認会計士・弁護士などは、一定の要件のもとで認定支援機関として登録することができます。
認定支援機関として補助金申請に関与できる業務の例は次の通りです。
- 顧問先の申請枠の選定支援と要件確認
- 事業計画書の作成・ブラッシュアップの支援
- 採択後の交付申請・実績報告のサポート
- 認定支援機関の確認書の作成・添付
認定支援機関として関与することで、補助金申請支援そのものが顧問先への付加価値になります。「補助金のことは分からない」という立場から、「申請まで一緒に動ける専門家」という立場に変わるだけで、顧問先との関係が深まります。
補助金の説明ができると顧問先への提案がどう変わるか
「事業承継には費用がかかる」という顧問先の不安に対して、補助金の知識があるかないかで提案の質は大きく変わります。
知識がない場合の対応 「費用がかかるのは仕方ない。専門家に頼んでください」
補助金知識がある場合の対応 「M&Aにかかる専門家費用は、事業承継・M&A補助金の専門家活用枠を使えば最大800万円まで補助が受けられます。ただし審査があるので、事業計画書の準備が必要です。一緒に整理しませんか」
後者の提案は、顧問先に「この人は自分の側に立って考えてくれている」という安心感を与えます。大手仲介会社への丸投げではなく、費用を抑える選択肢を一緒に探せる専門家というポジションが生まれます。
「補助金を使えば費用が抑えられます」と言える専門家の強み
補助金知識を持つ専門家が提供できる価値は、次の3つに整理できます。
①費用の全体最適を設計できる
補助金で賄える費用の範囲を把握したうえで、専門家報酬・弁護士費用・税務費用の全体像を設計できます。顧問先が「どこに何をいくら払うのか」を見通せる状態を作れる専門家は、信頼のハードルが大きく下がります。
②補助金申請という新たな関与機会が生まれる
承継の相談を受けた段階で補助金申請の伴走支援まで提案できれば、単なる「情報提供者」ではなく「実務に関わるパートナー」として関与できます。
③大手仲介会社との差別化ができる
大手M&A仲介会社は補助金申請の伴走支援まで手が回らないケースがほとんどです。地域密着型の専門家が「補助金まで含めて一緒に動ける」ことは、大手にはない競争優位になります。
ある独立系の中小企業診断士は、顧問先の製造業オーナーから「後継者が見つかった」と相談を受けた際、専門家活用枠の補助金を提案しました。仲介会社の手数料200万円のうち100万円が補助金で賄えた結果、オーナーからの感謝はもちろん、その後の顧問契約の更新にも好影響があったといいます。
補助金知識を武器に、事業承継支援の専門家として動き出すには

このセクションでは、補助金申請の伴走支援を新たな業務として取り込むための視点と、M&Aコーディネーター資格との連携について解説します。
補助金申請の伴走支援が士業の新たな収益源になる理由
事業承継・M&A補助金の申請支援は、士業・診断士にとって新しい収益源になりえます。その理由は次の3点です。
①既存の顧問先が対象になりやすい
事業承継を検討しているオーナーは、すでに税理士・診断士・保険営業と顧問関係にあることが多い。新規開拓なく補助金支援を提案できる既存顧客が存在します。
②報酬単価が高い業務になりえる
補助金申請の計画書作成・伴走支援は、通常の月次顧問料とは別に成果報酬型の費用設定が可能です。採択額の数%〜10%程度を成果報酬として設定するモデルが多く、1件あたり数十万円の報酬になるケースがあります。
③継続的な関与が生まれる
補助金は交付決定から実績報告まで数カ月〜1年以上かかります。この間、継続的な関与が発生し、承継後の経営支援へのつなぎにもなります。
補助金申請支援で「採択された」という実績は強力な口コミになります。「あの先生に頼んだら補助金が取れた」という評判は、同じ地域内で連鎖的に紹介につながります。
M&Aコーディネーター資格で体系的に補助金・支援制度を学ぶ
M&Aコーディネーター資格のカリキュラムには、補助金・公的支援制度に関する体系的な学習内容が含まれています。
具体的に習得できる知識は次の通りです。
| 学習領域 | 習得できる内容 |
|---|---|
| 補助金制度の全体像 | 事業承継・M&A補助金の枠構成・対象経費・要件の整理 |
| 申請実務の基礎 | 事業計画書の要素・審査の視点・採択のポイント |
| 公的支援機関の活用 | 事業承継・引継ぎ支援センターとの連携方法 |
| 費用設計の実践 | 補助金を組み込んだ全体費用の設計方法 |
| 支援制度の最新動向 | 毎年更新される制度への対応の考え方 |
補助金の知識は単体では使いにくく、M&Aの全体プロセスと組み合わせて初めて実践力になります。「どの段階で補助金申請を進めるか」「補助対象となる経費の範囲をどう設計するか」を判断するには、M&Aの流れそのものを理解していることが前提です。
M&Aコーディネーター資格は、補助金知識と承継実務の両方を体系的に習得できる点で、地域専門家としての実践力を効率よく高める手段のひとつです。
資格取得者が補助金支援で顧問先から感謝された事例
M&Aコーディネーター資格を取得した専門家からは、補助金支援に関する次のような声が届いています。
「これまで事業承継の相談を受けると専門家を紹介して終わりだった。資格取得後は補助金の存在と使い方を説明できるようになり、顧問先から『先生に教えてもらわなければ知らないままだった』と言われた」(中小企業診断士・40代・地方都市在住)
「補助金の採択支援をきっかけに、承継後の経営支援まで関与できるようになった。1件の事業承継で、従来の顧問業務だけでは発生しなかった報酬が得られた」(税理士事務所マネージャー・40代)
「事業承継・M&A補助金の専門家活用枠を顧問先に提案したところ、採択された。仲介手数料の半額以上が補助されたことで、顧問先オーナーの手取りが想定より大幅に増えた。その後、周辺の経営者仲間からも相談が来るようになった」(独立FP・40代)
事業承継の相談を受けた際に「補助金まで一緒に考えられる専門家」として動けるかどうか——それが、地域での差別化を生む実践力の核心です。顧問先の事業承継を「費用の問題」で止めないために、制度知識と申請伴走の力を身につけることが、次のステージへの確実な一歩になります。
まとめ
本記事では、事業承継補助金・M&A補助金の制度概要から最新スケジュール、採択傾向、士業としての活用方法まで解説しました。要点を整理します。
- 「事業承継・M&A補助金」は11次公募から名称が変更された。以前の「引継ぎ補助金」と実質的に同じ制度の最新版
- 現行制度は事業承継促進枠・専門家活用枠・PMI推進枠・廃業・再チャレンジ枠の4枠構成
- 補助上限は最大800〜1,000万円(賃上げ要件あり)。専門家活用枠ではM&A費用の最大半額を補助できる
- 採択率はおおむね55〜61%前後で推移。事業計画の質が採択を左右する
- 親族間承継(親子承継)は専門家活用枠・PMI推進枠の対象外。事業承継促進枠が対象
- 補助金の説明ができる専門家は、顧問先の「費用不安」を解消し、信頼を深める立場に立てる
「補助金を使えば費用を抑えられます」と自信を持って言える専門家になることは、顧問先からの信頼を次のステージへ引き上げる最短経路のひとつです。



