事業承継の費用・手数料の相場は?金額の目安とコストを抑える方法

事業承継

「顧問先の社長から事業承継の相談を受けたとき、費用について聞かれて答えられなかった」——そんな経験はないでしょうか。

事業承継にかかる費用は、手法・企業規模・使う専門家によって大きく異なります。「いくらかかるのか」という問いに答えられるかどうかは、顧問先からの信頼に直結します。本記事では、事業承継の費用と手数料の相場を体系的に整理し、コストを抑える方法や、専門家として費用説明力を高める手段まで解説します。

事業承継の費用、実際どれくらいかかるのか

このセクションでは、事業承継全体にかかる費用の構造と金額の目安を整理します。「何にいくらかかるのか」を把握することが、顧問先への説明の第一歩です。

事業承継にかかる費用の全体像と金額の目安

事業承継の費用は大きく次の3つに分類できます。

費用の種類内容目安金額
専門家報酬M&A仲介・弁護士・税理士などへの依頼費用数十万〜数百万円
税負担株式譲渡税・相続税・贈与税など譲渡額の20〜55%(税制次第)
手続き費用登記・各種届出・デューデリジェンス費用など数万〜数十万円

全体としては、譲渡価額が数千万円規模のスモールM&Aでは総費用が数百万円前後になるケースが多く、大型案件になるほど専門家報酬も比例して増加します。ただし手法によっては大幅に費用を抑えることも可能です。

「事業承継」と一口に言っても、親族内承継・従業員承継・M&A(第三者承継)で費用構造はまったく異なります。M&Aの場合はとくに仲介手数料が大きな割合を占めます。

フェーズ別に見る費用の内訳と目安金額

事業承継のプロセスを段階に分けると、各フェーズで費用が発生します。

フェーズ1:準備・相談段階

この段階では、専門家への初期相談費用や、企業価値評価(バリュエーション)の費用がかかります。

  • 事業承継・引継ぎ支援センターへの相談:無料
  • 税理士・中小企業診断士への個別相談:1〜3万円/時間が目安
  • 企業価値評価(簡易):10〜30万円程度

フェーズ2:マッチング・交渉段階

M&A仲介会社を使う場合、ここで最も大きな費用が発生します。

  • 着手金:0〜50万円(仲介会社によって異なる)
  • 中間報酬(基本合意時):50〜200万円程度
  • 弁護士費用(契約書作成・レビュー):20〜100万円程度

フェーズ3:クロージング・手続き段階

  • 成功報酬(レーマン方式):後述
  • 登記費用:数万円程度
  • デューデリジェンス費用:30〜100万円程度

費用の多くは「成功報酬」として最終段階に集中します。事前に概算を把握しておくことで、顧問先が想定外のコストに驚かないよう備えることができます。

「どれくらいかかるか」を概算するときの考え方

費用を概算するうえで最も重要な変数は、①企業の譲渡価額と②使う専門家・手法の2点です。

たとえば譲渡価額3,000万円のスモールM&A案件であれば、次のような概算が目安になります。

  • 仲介手数料(レーマン方式・最低手数料適用):300〜500万円
  • 弁護士費用:50〜100万円
  • 税理士・会計士費用:30〜50万円
  • 合計概算:400〜650万円程度

これに譲渡益への課税(株式譲渡なら約20%)が加わります。

上記はあくまで参考値です。仲介会社の料金体系・最低手数料の設定・案件の複雑さによって大きく変動します。顧問先へ伝える際には「目安」として使い、必ず専門家への確認を勧めてください。

事業承継の手数料の相場を確認する

このセクションでは、事業承継にかかる各種手数料の相場を専門家別に整理します。「どこに頼むといくらかかるのか」を把握しておくことが、顧問先を守る最初の知識になります。

M&A仲介会社の手数料の仕組みとレーマン方式

M&A仲介会社の成功報酬で広く採用されているのがレーマン方式です。これは譲渡価額のレンジごとに料率を設定し、合算する形で手数料を計算する方式です。

移動価額の範囲料率(目安)
5億円以下の部分5%
5億円超〜10億円以下の部分4%
10億円超〜50億円以下の部分3%
50億円超〜100億円以下の部分2%
100億円超の部分1%

スモールM&Aの場合、計算結果が小さくなるため、多くの仲介会社は最低手数料を200〜500万円として設定しています。つまり譲渡価額が低くても、一定の手数料が発生する構造です。

「移動価額」の定義は仲介会社によって異なります。株式の売買価額のみとする会社もあれば、負債引受額や役員退職金を含めて算定する会社もあります。契約前に必ず確認が必要な項目です。

大手仲介会社(日本M&Aセンター・M&Aキャピタルパートナーズなど)では、成功報酬に加えて着手金・月額報酬(リテイナー)・中間報酬を組み合わせた体系が一般的です。一方、地域密着型のアドバイザーや個人のFAでは着手金なし・成功報酬のみのケースもあります。

弁護士費用はどのくらい見ておくべきか

M&Aにおける弁護士の役割は、主に契約書作成・法務デューデリジェンス・クロージング手続きのサポートです。

費用の目安は次の通りです。

業務内容費用目安
秘密保持契約(NDA)作成数万円〜
基本合意書作成・レビュー10〜30万円
法務デューデリジェンス30〜100万円
最終契約書(株式譲渡契約等)作成30〜100万円
クロージング対応10〜30万円

案件の複雑さ・弁護士事務所の規模・地域によって幅があります。中小企業のスモールM&Aでは、トータルで50〜150万円程度を見込んでおくと安心です。

弁護士費用は「高いから省く」という判断が最も危険です。とくに株式譲渡契約や表明保証条項のレビューは、クロージング後のトラブルを防ぐために欠かせません。費用対効果が高い投資と捉えるべき領域です。

税理士・士業に依頼する場合の費用感

事業承継に関わる税理士業務は主に次の3つです。

①企業価値評価(バリュエーション)

DCF法・類似会社比較法・純資産法などで企業価値を算定します。費用目安は10〜50万円程度。中小企業では簡易的な純資産評価が使われることも多く、その場合は比較的低コストになります。

②税務デューデリジェンス

買い手側が実施するケースが多く、20〜80万円程度。隠れた税務リスクの発見が目的です。

③税務申告・スキーム設計

株式譲渡益の申告・事業承継税制の活用・組織再編税制の設計など。顧問税理士が対応できる範囲と、M&A専門税理士への依頼が必要な範囲を見極めることが重要です。費用は数十万円〜100万円超まで幅があります。

既存の顧問税理士が事業承継に不慣れな場合、追加でM&A経験のある税理士に依頼するケースがあります。「既存顧問税理士+M&A専門税理士」の二重構造になるとコストが増加するため、早い段階での役割分担の確認が重要です。

費用を抑えるための選択肢

このセクションでは、事業承継の費用を抑えるための具体的な選択肢を整理します。コストを削減しながらも、適切な引き継ぎを実現するための考え方を解説します。

事業承継を0円・無償譲渡で行うケースとは

事業承継の費用を「0円」に抑える、あるいは事業自体を無償譲渡するケースがあります。これは決して珍しいことではなく、とくにスモールビジネスの承継では実際に起きています。

無償譲渡が選ばれる主な背景は次の通りです。

  • 純資産がほぼゼロまたはマイナスに近い会社で、事業継続の意志のある後継者を探すケース
  • 従業員の雇用維持を最優先に考え、金銭的なリターンを求めないケース
  • 親族内承継で、贈与・相続を活用して実質的な対価なしに株式移転するケース
  • 事業承継ではなく「廃業回避」として第三者に引き渡すケース

「0円M&A」「無償譲渡」という言葉が使われますが、法的には「贈与」または「低廉譲渡」として取り扱われます。税務上の問題(みなし贈与課税など)が発生するケースもあるため、税理士への確認は必須です。

無償譲渡のメリットとリスク

メリット

  • 後継者候補のハードルが下がり、交渉がまとまりやすい
  • 廃業コスト(解雇・在庫処分・原状回復等)を回避できる
  • 従業員・顧客・取引先への影響を最小化できる
  • 譲渡側のオーナーが「社会的責任を果たした」という満足感を得られる

リスク・注意点

  • 税務上のみなし贈与課税が発生する可能性がある
  • 買い手側に隠れた負債・訴訟リスクを引き継がせてしまうリスク
  • 後継者が経営を安定させられない場合、結果的に廃業となるケース
  • 無償ゆえに「後継者が本気かどうか」の見極めが難しい

無償譲渡は「費用がかからない」わけではありません。専門家報酬・登記費用・税務対応は別途発生します。「譲渡対価が0円」であっても、プロセスにかかるコストは必ず見積もってください。

公的機関(事業承継・引継ぎ支援センター等)を活用して費用を抑える方法

費用を抑える最も現実的な手段のひとつが、公的支援機関の活用です。

事業承継・引継ぎ支援センター

全国47都道府県に設置されている公的機関で、相談・マッチング支援が原則無料です。中小企業庁が管轄し、M&A専門家の紹介や簡易的な企業価値評価支援も行っています。

主なサービス内容は次の通りです。

サービス費用
初期相談・現状整理無料
後継者マッチング支援無料(成約手数料なし)
専門家紹介(弁護士・税理士等)紹介は無料、専門家への依頼費用は別途
事業承継計画の策定支援無料

中小機構・よろず支援拠点

事業承継に特化した相談だけでなく、経営全般の相談が可能で無料です。地域によっては事業承継の専門アドバイザーが常駐しています。

事業承継税制(特例措置)の活用

後継者が一定の要件を満たす場合、株式に係る贈与税・相続税の猶予・免除が受けられる制度です。適切に活用すれば、税負担を大幅に抑えることができます。

事業承継税制の特例措置には申請期限があります。2024年3月末までに「特例承継計画」の提出が必要でしたが、現在の適用状況は中小企業庁の公式情報で必ず最新情報を確認してください。

公的機関を「入口」として活用し、専門家への依頼範囲を絞ることで、総費用を大幅に削減できます。「全部を民間仲介会社に任せる」以外の選択肢があることを、顧問先に早い段階で伝えることが重要です。

費用面で後悔しないために知っておくこと

このセクションでは、事業承継の費用で顧問先が後悔しないために、専門家として押さえておくべき視点を整理します。

費用の透明性が高い専門家の見極め方

事業承継の専門家を選ぶうえで、費用の透明性は最重要の確認事項です。透明性が高い専門家・仲介会社には次の特徴があります。

  • 料金体系を書面で明示する:口頭説明だけでなく、着手金・中間報酬・成功報酬の計算方法を書類で提示できる
  • 最低手数料を明確に開示する:「成功報酬5%」とだけ書いて最低手数料を隠す業者には注意が必要
  • 利益相反関係を説明する:両手仲介(売り手・買い手双方から報酬をもらう)の場合、その構造を正直に説明できるか
  • 追加費用の可能性を事前に伝える:デューデリジェンス費用・外部専門家費用が別途発生することをあらかじめ説明する

ある税理士事務所のマネージャーが顧問先の事業承継をサポートする際、仲介会社から最初に提示された契約書には「その他費用は別途協議」という記載があり、後から数十万円の追加請求が発生しました。契約前の段階で「想定される全費用の一覧提示」を要求したことで、次の案件ではそのようなトラブルを回避できたという事例があります。

コーディネーターが間に入ることで手数料構造はどう変わるか

地域の専門家(診断士・士業・FP等)がM&Aコーディネーターとして関与することで、費用構造が変わるケースがあります。

コーディネーターが関与したときの変化

  • 大手仲介会社に直接持ち込む前に、案件の適正規模・手法を整理できるため、不必要な仲介コストを排除できる
  • 公的支援機関との接続を支援することで、マッチング段階のコストをゼロにできるケースがある
  • 弁護士・税理士との役割分担を設計することで、専門家報酬の重複発生を防ぐことができる
  • 顧問先が交渉力を持てるよう費用の目安を事前に共有することで、相場より高い成功報酬を提示されたときに気づける

コーディネーターは「報酬を取らずに動く必要がある」という誤解があります。実際には、案件に関与したコーディネーターが仲介会社から紹介料を受け取る形や、顧問先から直接コンサルティング報酬をいただく形など、複数の収益モデルが存在します。費用構造の設計も含めて学ぶことが、実践的な関与につながります。

顧問先に「高い買い物をさせた」と思われないために

長年の信頼関係を壊すリスクの中でも、費用面でのトラブルは特に深刻です。「あの先生に紹介されたせいで余計なお金を払った」という評価は、一度ついたら回復が難しい。

顧問先を守るために実践できる具体的なアクションは次の通りです。

  1. 複数の専門家・仲介会社から見積もりを取らせる:1社だけに相談させるのは禁物。比較することで相場感が生まれる
  2. 「最低手数料」の確認を必ず促す:スモールM&Aでは成功報酬率よりも最低手数料の額が実質コストを決定することが多い
  3. 公的支援機関の活用を先に検討する:民間仲介の前に事業承継・引継ぎ支援センターへの相談を勧める
  4. 税負担の試算を早期に行う:専門家報酬だけでなく、税負担を含めた「手取り額」を顧問先が把握できるよう支援する

顧問先が「費用について何も知らない状態」で民間仲介に持ち込むことが最もリスクの高い状態です。事前に「概算の目安を教えられる専門家」としての立ち位置を確立することが、顧問先の信頼を守る最大の防御になります。

顧問先の事業承継に費用面でも答えられる専門家になるには

このセクションでは、費用知識を武器にした専門家としてのポジション確立と、M&Aコーディネーター資格がその実現にどう貢献するかを解説します。

費用の概算を即答できるだけで信頼度が変わる

「事業承継って、だいたいいくらくらいかかるんですか?」

この質問に対して、「専門家に聞いてみてください」と答えるのと、「譲渡規模が数千万円クラスであれば、専門家報酬だけで300〜500万円程度は見ておいた方がよいです。ただし公的機関を活用すればマッチング費用は無料にできます」と答えるのでは、顧問先が受ける印象はまったく異なります。

即答できる専門家は「この人は頼れる」という安心感を与えます。正確な数字でなくても構いません。「大まかな目安と、費用を抑える方法がある」という構造を答えられることが重要です。

ある保険営業担当者は、顧問先オーナーから「事業承継の費用ってどのくらい?」と聞かれた際に、費用の全体像・仲介手数料の仕組み・公的機関の活用方法をまとめた自作の資料を使って説明しました。「こんなに詳しく知っているとは思わなかった」という反応があり、その後の事業承継検討プロセス全体に関与できるようになったといいます。

M&Aコーディネーター資格が提供する費用・交渉知識の全体像

M&Aコーディネーター資格のカリキュラムには、費用・手数料に関する実践的な知識が体系的に組み込まれています。

具体的に習得できる内容は次の通りです。

学習領域習得できる知識
企業価値評価DCF法・純資産法・類似会社比較の使い分けと概算方法
手数料構造レーマン方式の計算・最低手数料の仕組み・利益相反の理解
税務基礎株式譲渡益課税・事業承継税制の概要・スキーム別の税負担比較
交渉実務費用交渉の進め方・条件整理のフレームワーク
公的支援制度事業承継・引継ぎ支援センターの活用方法・補助金・税制優遇

これらの知識は、専門家として顧問先に「費用を含めた全体像を説明できる立場」になるための実践的な土台となります。

資格取得の目的は「M&Aの全実務を自分でやること」ではありません。顧問先の相談を受けたときに「何が起きているか・何が必要か・どこに繋ぐべきか」を整理できる力を持つことです。費用の目安を答えられることは、その力の中でも最も即効性が高い部分です。

資格取得者が語る「費用説明で顧問先の安心感が変わった」実感

M&Aコーディネーター資格を取得した実践者からは、費用知識の習得による変化について次のような声が届いています。

「以前は費用の話になると『専門家に確認を』と言うしかなかった。今は概算の目安を伝えながら、公的機関の活用も提案できる。顧問先が安心した顔で話を続けてくれるようになった」(独立系中小企業診断士・40代)

「手数料の仕組みを理解したことで、大手仲介会社の提案書を顧問先と一緒に読み解けるようになった。『この最低手数料の条件、少し高くないですか』と指摘できたことで、顧問先に感謝された」(税理士事務所マネージャー・40代)

地域の専門家として「費用面でも一緒に考えられる存在」になること——それが、顧問先との信頼関係を次のステージへ引き上げる鍵です。事業承継の相談を「丸投げ」で終わらせない専門家を目指すために、体系的な知識の習得は確実な一歩になります。

まとめ

本記事では、事業承継の費用・手数料の相場と、コストを抑えるための選択肢について解説しました。要点を整理します。

  • 事業承継の費用は「専門家報酬・税負担・手続き費用」の3種類に分類される
  • スモールM&Aでは仲介手数料の最低手数料が実質コストを左右することが多い
  • 弁護士・税理士費用はあわせて数十万〜数百万円の幅がある
  • 無償譲渡は選択肢になりえるが、税務リスクへの対応が必須
  • 事業承継・引継ぎ支援センターを活用することでマッチング費用を無料化できる
  • 費用の目安を即答できる専門家は、顧問先から「頼れる存在」として認識される

費用の全体像を把握し、顧問先に最初の説明ができる専門家になることが、事業承継支援の第一歩です。M&Aコーディネーター資格は、その実践力を体系的に身につけるための確実な手段のひとつです。